雑記

『西南役伝説』(石牟礼道子)のちょっと変わった読み方を試みる

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もともと読むのが大変に難しい本です。

石牟礼道子さんの『西南役伝説』のことです。

文体も、語彙も、ぜんぜん難しくない。でも、読むのが破格に難しいのです。

というのも、この本は熊本県水俣の老人たちに、西南戦争の話として親や祖父母から口伝で聞いた話を取材したものなのですが、水俣病のドキュメンタリーで功績のある石牟礼さんのこと、よくもわるくも、ご本人の「編集」が入ってしまっているのです。

ハッキリ言いますと・・・どうしても、取材した老人たちが、ことごとく「戦争はいけないものだなぁ」「戦争はバカバカしいことだったなぁ」という意見を表明している。太平洋戦争についての語りならともかく、彼らにとっても「聞いた話」でしかない西南戦争のことが、こんなにも反戦テーマに結びつくのだろうか、と、ウクライナ問題や台湾問題に揺れる現代人の私にはどうも注意深くなってしまいます。

「反戦」の目がどうも入ってしまう編集方針の本だから悪い、ということではありません。

この本で書かれていることを持って、「そうか、西南戦争というものも熊本の一般庶民には悪として、冷ややかに見られていたのか」と解釈してしまうことにいささかの危なさを感じるという意味です。

ただし、

そういう編集方針がかかっている本である、ということをあらかじめアタマに入れた上で冷静に読むならば、西南戦争を多面的な証言で見ることができる、という意味でこんなに有益な本もない(それだけに、著者および編集者の「脚色」がかすかに入っているらしい点が、めちゃくちゃ、惜しくてならない!)。

そして、怪談・妖怪好きの私が本書を取り上げた理由は、もうひとつあります。

西南戦争後、日露戦争に従軍した熊本の若者が、旅順の地で心がくじけそうになったとき、西郷隆盛の霊の幻影を見た、という証言

「西南の役が終わった後は、幽霊がたくさん出てしまって本当に大変だった」という率直な時代の証言!!

などなど、怪談や妖怪に興味を持つ人間としては、そのような細かいところで出てくる証言にいちいち、「これは!」と思うところがある。

こういう箇所だけを拾っていくと、何をおいてもまず、西南戦争が巻き込まれた人々のココロの中では、まず「怪談」「幽霊譚」「怪異のウワサ」として記憶され、語り継がれたのだということがわかるのです。そしてこれは、怪談とか妖怪とかいうものと「実際の歴史」の関係に興味を持つ身としてはたいへんに興味深い。

もちろん、

いうまでもなく、石牟礼道子さんの『西南役伝説』の読み方としては、

「怪談」や「怪異のウワサ」として読める証言だけを拾っていく、というのは、いささか変わった読み方となります。

ですが、もともと扱いの難しいこの本から、「戦争に巻き込まれた人たちが、終戦後、どのような幽霊や怪談を信じたか」という証言だけを取り出し、考察していくという読み方は、西南戦争に向き合う(※戦争全般に向き合う、ではないので注意!)人の一つの在り方として、面白いかもしれないのではないか、と思った次第でした。

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