雑記

『怪異の風景学』(古今書院)が語る「千と千尋の神隠し」からの比喩としての妖怪学のこと

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※画像はジブリ公式サイトの公開画像より

佐々木高弘さんの『怪異の風景学』という本にがぜん注目しています。

怪異の風景学 (シリーズ妖怪文化の民俗地理) [ 佐々木高弘 ]

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ヤーコブソンの言語学に妖怪民話を当てはめてみたり、パースの記号論に妖怪民話を当てはめてみたりと、もっぱら構造言語学と記号論をベースに、日本の「怪異・妖怪」なるものに切り込んでいく試み。

つまりバリバリの構造分析の本ですが、しかし表面的な分析テクニックなどよりも、ずっと注目したいのは、

序章で語られる佐々木高広さんの、妖怪に対する向き合い方。

本書では、妖怪というものを実在するものとは考えていない

という、きっぱりとした宣言に始まり、

しかし妖怪の存在意義は認める。それどころか、もっと正しく評価されるべきと考える

とされています。つまり「実在」を拒否しつつ、「そういうモノがあたかもいるかのように語る意義」は全面的に残そうという立場となりましょうか!

なぜなら、

著者(=佐々木高弘さん)が地域社会に関わる中でしばしば見てきたのは、「客観的データ上、君達の役に立つ」というお上からの押し付けでの大規模開発工事に対して、そこに住む人たちの言語化されざる内的世界が犠牲になった事例をたくさん見てしまった

がゆえの、問題意識からであり、

妖怪のことを知れば、「客観的データ」と「住民たちの内的世界」の矛盾が解決できる議論の土台が築けると安易に考えているわけではないが、何か問題解決の糸口は掴めるのではないか

という期待を妖怪学にこめているからとの旨。

このスタンスには徹底的に賛同できます!

そして面白いのが、佐々木高弘さんは本書の中盤で、映画『千と千尋の神隠し』に触れ、

望んでもいない引っ越しに連れてこられた千尋の車のバックシートでの沈黙と、彼女の心の抵抗にまるで気づかず『この引っ越しはよいもの』とすました顔をしている母親との対比構造は、まさに地域社会の住民と、客観的データしか見ない開発側との間で、対話が成立していないという現代の問題の象徴に見える

としていること。

あー、『千と千尋』を使った、この比喩、なるほど凄くよくわかります!

そして、客観的データしか見ない母親が怪異には実は無力であり、内的世界の言語化がうまくできずにいた千尋のほうが怪異に驚かず立ち向かえたのだ、とまで深読みすると、なおのこと、この比喩的読みは、面白い!

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