「怖い本」トラウマ読書日記

【読書日記】ホラー映画監督清水崇の自伝本をアリスとチェシャ猫が熱心に読んでみた

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本対話篇の登場人物

【アリス】『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』で有名な御仁。ですが本対話篇のキャラ付けは、どちらかといえばAmerican McGee's Aliceの影響を受けています

【チェシャ猫】こちらも『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』で有名な上、ボルヘスの『幻獣事典』にも晴れて(!)採用された有名キャラ。ですがこちらもAmerican McGee's Aliceのキャラ設定に寄せています

とある夏の夕暮れのアリスとチェシャ猫

アリス

チェシャ猫さん、どうしたの?今日も小枝の上でずいぶんとヒマそうじゃない?

チェシャ猫

どうしたもこうしたもないもんさ。たまにはテレビでもと見ていたんだが、なんだい、サダコもカヤコも最近はすっかりギャグ路線だ。そういやこのところ、バリッとしたJホラーというものに出会えてない。ぼんやりとここで物思いにふけっていると、どうしても、『リング』とか『呪怨』とかの、90年代~00年代のJホラーが懐かしくなってきてね

アリス

それ、世代がバレちゃう発言ねえ

チェシャ猫

19世紀ビクトリア朝っ子の君には、言われたくないものだがね

アリス

でも、ちょうどよかった。実はわたし、今日、こんな本を読んでいたの↓↓↓

チェシャ猫

おおおっと!なんという逸品を、こいつはまた、、、!

アリス

さすがはチェシャ猫さん。この本を知ってるのね?

チェシャ猫

『呪怨』の清水崇監督が自らの来歴や映画作法を縦横無尽に語った、ファン必携の一冊だよ!この本にたどりつくとは、さすがに、君のホラー界隈ネタに関する嗅覚は、ぬけめなく研ぎ澄まされているようだね

アリス

「あのころはよかった」なんて言う大人には、なりたくないとは、いつも思っているけど・・・

チェシャ猫

うむ

アリス

そんなにヒマそうなら、この本をネタに、清水崇監督のことについて、今日は語り合わない?

チェシャ猫

ふむう・・・そんなら、ひとつ、なぞなぞだ。「あのころはよかった」なんて言う大人になりたくない、という点と、今日は清水崇監督について語り合おう、という点、双方について私が賛成したとすると、その場合、私の発言は矛盾になってしまうかね?

アリス

また、ややこしいことを。どうせ、「自分はネコであって、大『人』になることはないから、矛盾にならない」っていう、オチをつけるんでしょ?

チェシャ猫

おや、あいかわらず、するどい

清水崇監督の日本家屋へのこだわりを考える

チェシャ猫

では『寿恩』の話だが。この本の前半で語られる、清水崇監督の来歴自体、私にはとても興味深いのだよ。「Jホラーの監督として、これはちょっとできすぎているんじゃないか」と思ってしまうような生い立ちが、さりげなく書かれているんだが、どこだかわかるかな?

アリス

群馬県前橋市出身で、「ET」を見て映画に憧れたっていう少年時代の話がメインよね?チェシャ猫さんが気になりそうな点があったかしら?

チェシャ猫

答えを言おうか。清水監督は、畳業者の経営者の息子さんなんだよ

アリス

畳業者・・・あー、なるほどー!

チェシャ猫

清水崇監督って、つくづく、現代の日本家屋の構造を知り尽くしている監督さんだって思わないかい?それも、溝口健二監督や小津安二郎監督のような大上段な視線ではなくて、とっても生活者の視線で、現代の日本の庶民住宅の「狭さ」の感覚をフル活用している人だ。もしかしたら、小さい頃から畳職人の方の仕事を見ていた経験が、いくばくかそのセンスの支えになっているのでは、、、なんて思っちゃうわけだよ。穿ちすぎかもしれんがね

アリス

でも、清水崇監督の凄いところって、呪怨がハリウッドに進出した時も、けっきょくアメリカ人が日本家屋に引っ越してくるっていう強引な物語設定にしてまで、現代日本家屋での描写にこだわったところだものね!

チェシャ猫

彼にとって「現代の平凡な一軒家」を舞台に撮影することが徹底してホーム戦なのかもしれない

アリス

その土壌が、群馬県の畳業者の息子さんだったがゆえに培われた感覚だったと仮定するのは、穿ちすぎかもしれないけど、オハナシとしては、面白いわよね

清水崇監督を育てた群馬県のことを考える

チェシャ猫

その清水監督、近畿大学で演劇・映画を学ぶわけだが、けっきょくそんな彼の転機になったのが、小栗康平監督の『眠る男』の撮影スタッフに応募したことなんだ

アリス

『眠る男』も、これはこれで懐かしいわね

チェシャ猫

これも清水崇監督の目線に立つと初めて見えてくることなんだが、小栗康平監督って、清水崇監督と同じく、群馬県前橋市の出身なんだよな。そしてこの『眠る男』は、群馬県が出資まで含めて全面バックアップをした映画。ロケ地もほとんどが群馬県から選ばれている

アリス

ああ、なるほど!それで清水崇監督、「『眠る男』の撮影スタッフの募集を上毛新聞で見つけた」と言っているわけね。でも、そんなふうに群馬県の人脈の中で育てられた無名の映画スタッフが、やがてハリウッドまで進出していくわけだから。ハリウッドをぶいぶい言わせた『呪怨』を育てたのは、実は群馬県の風土だった、なんてことも、言えちゃいそうね

チェシャ猫

そうだね。でも、この『眠る男』に参加してからの清水崇監督の経歴、いささか、凄まじい上昇ペースになる。『眠る男』の現場の先輩に引きたてられてVシネマの世界にいき、NHK『天才てれびくん』の仕事が入り、映画美学校の一期生に取り立てられ、そこで黒沢清に見いだされ、『学校の怪談G』を任される・・・そして、かの『リング』脚本を担当した高橋洋の案内で、プロデューサー一瀬隆信と出会い、『呪怨』を手掛けることになる

アリス

他にも、青山真治とか豊島圭介とかの名前もバンバン出てきて・・・清水崇監督の20代の生活日記を追っているだけで、90年代~00年代のJホラー界のオオモノたちが全員出て来ちゃう勢いよね。この人脈の広がりのところ、凄いわよね

チェシャ猫

それだけ、ホラー界隈のクリエイター間でも清水崇監督が期待されていたってことになるんだろうけど・・・私などはもうひとつ、おそらく清水崇監督という人が、きっと先輩や先人から愛されやすい人柄なのではないか、なんてふうにも、推測するわけだ

アリス

たしかに、この本の文章自体、てらいがなくて、純粋で、めちゃくちゃ面白いもんね・・・この本を読むかぎり、好感度が上がりに上がるもの

やはりハリウッド進出のことを考える

アリス

でもけっきょくのところ、この本のクライマックスは、ハリウッド版『呪怨』の撮影現場の思い出よね

チェシャ猫

言っちゃなんだが、よくそんなリスキーな現場で、あれだけの完成品を仕上げたよな、と感嘆してしまう話だよ

アリス

一瀬プロデューサーがみごとにハリウッドに企画を売り込んでくれたんだけど、製作に入ったサム・ライミ(!)の希望で、オリジナルと同じく清水崇監督自身が監督をやることにトントンで決まっちゃうのよね。いきなりすべてを任せてきたサム・ライミのほうも豪胆で凄いわけだけどw

チェシャ猫

ハリウッド資本で、ハリウッド側からの指示を受けながら、日本人スタッフを使って日本で撮影するという超イレギュラー体制だ。しかも主演はサラ・ミシェル・ゲラーにビル・プルマンという大物投入

アリス

そのサラ・ミシェル・ゲラーがぜんぜん言うこと聞いてくんないのよねw

チェシャ猫

ところが清水監督も負けておらず、ガン詰めして、一度、半ベソに追い込んじゃう、とかとかw

アリス

凄いと思うのが、普通、ハリウッドの資本と、ハリウッドの俳優を使って、日本人監督が撮影するとなったら、もっと「アメリカのやり方を研究して」とか「英語も話せるようになって」とか、向こうの文化に合わせる話が出てくるでしょ?ところが清水監督は・・・

チェシャ猫

どうやら、相手がアメリカの大俳優だろうがなんだろうか関係なく、いつものスタイルののまま突撃していったらしいんだよなw。アメリカ人の前では絶対やっちゃいけないと言われているはずの、飲み会泥酔事件まで、やっちまっているらしいしw。90年代のあらくれ日本映画人のまんま、やっているわけだけど・・・

アリス

それが、完璧に、功を奏したらしいのよね

チェシャ猫

サラ・ミシェル・ゲラーも、言うことをきくようになったらしいし、最後には、製作のサム・ライミから秘蔵の35ミリカメラを譲ってもらってるし

アリス

いい話なのよね

チェシャ猫

そうなんだよ。凄く、アツい話なんだ

アリス

そしてこれを読むと、書店にたくさん出ている、「アメリカ人とビジネスをするときのマナー教本」みたいなものは、いったいなんなのだろうって考えちゃうわよねw

チェシャ猫

まぁね

結論、やはり『呪怨』が別格なのだ

チェシャ猫

でもすべては「面白い映画」を作るため。清水崇監督が、ハリウッドの並みいるオオモノたちからも認められたのは、作り上げた『呪怨』が、実際、怖かったからだよなw

アリス

そうね。日本版もいいけど、ハリウッド版のハデさも好きなのよねー。でも、見事なのは、ハリウッド版でも間違いなく「清水崇監督のスタイル」が貫かれていることよね。実際、時間軸をめちゃくちゃに前後させちゃう手法とか、日本版でも賛否両論でしょ?あれをそのままハリウッド版でもやっちゃうのは・・・

チェシャ猫

すごいリスクだったと思うよ。でも、興行的には大成功した。そこは、さすがはハリウッド。どんなイレギュラーな作り手であろうと、目標を超える収益を上げたんなら、もう一発で、時の人だ

アリス

そういう話は、たしかに、夢があるわよね。さすがは、ハリウッド、という

チェシャ猫

そのかわり、失敗したら、たいへんなことになっていたんだろうね。清水崇監督は、そういうリスクをしっかり背負ったから、あれだけの映画が撮れたわけだよ

アリス

この本を読んで、清水崇監督がどれだけの苦労を背負って撮影に臨んだかを理解した上で、もういちどぜひ、ハリウッド版『呪怨』観てみたくなったわ

チェシャ猫

事情がわかっちゃうと、サラ・ミシェル・ゲラーに少しイラっとするかもしれんがねw

アリス

でも、英語の通じない、謎の日本人監督タカシ・シミズにマジギレされてゴリヅメされて半泣きに追い込まれた女優さんだと思うと、むしろかわいそうに見えてくるかもw

チェシャ猫

あー、たしかに


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