小泉八雲『耳なし芳一』の英文がいかにカッコいい「ツカミ」になっているか存分に語らせてください!

このブログの随所でも事あるごとに言及しておりますが、

ハイ、私、小泉八雲が大好きです。

なにせ小泉八雲の『怪談』を英文で読みまくることで英語の勉強にしていたという学生時代の経緯もあります。それゆえ、彼は私の英語の恩師とも言えまする。エエ、そりゃたしかに、十九世紀な英語ということで今風にはいささか古い語彙を使っている方ではあります。

それでも、『怪談』の英語はいまだに私にとって最高です!美文名文というよりは、このドライブ感というかアトモスフィアというか、それらがちょうど私と相性がよい。

特に『耳なし芳一』のオープニングは最高です。凄まじいアラワザを多彩に盛り込んだ「ツカミ」といっていい!

どういうことか?

そこのところを、今夜はちょっと語らせてください!

More than seven hundred years ago, at Dan-no-ura, in the Straits of Shimonoseki, was fought the last battle of the long contest between the Heike, or Taira clan, and the Genji, or Minamoto clan.

これが書き出しのセンテンス。いいですか皆さん、これ、小泉八雲がターゲットとしている読者は日本のことなんかほとんど知らない19世紀末〜20世紀初頭の英米人なのですよ。普通だったら「そもそも源氏と平氏というのは云々」とか、「これは日本史を決定した重要な合戦で」とか、ウンチク説明をしたくなるところのはずです。

ところが、怪談ストーリーテラーとしてツボがわかっている小泉八雲は、そういう野暮なことをしない。

「ダンノウラ」も「シモノセキ」も「ヘイケ」も「ゲンジ」もそのまま固有名詞として出して、説明抜き、語感だけで突っ走ります。余計な説明を入れるよりもこれら日本史用語をそのまめ放り込むことでエキゾチズムに乗せちまおうという判断でしょうか。この反-説明主義には恰好よさを感じます

それだけではありません。このあとの文章は、

infant emperor likewise—now remembered as Antoku Tenno.

ときて、

Elsewhere I told you about the strange crabs found there, called Heike crabs, which have human faces on their backs,

ときて、

pale lights which the fishermen call Oni-bi, or demon-fires;

とくる。

この一連の導入文の中で、「安徳天皇」と「ヘイケガニ」と「平家の鬼火」という、日本の怪談・怨霊史を語る上で外せない三要素を惜しみなく一息に登場させているのです。ギリシャ生まれアイルランド出身のジャーナリストがですよ!どんだけ日本怪談の「おさえるべきポイント」をしっかりおさえているんだ!しかもそれを並列で一息に語ってしまう贅沢さ。

そして、凄いのが、

安徳天皇を語り、ヘイケガニを語り、鬼火を語ったところで、

「そういう怨霊を鎮めるために阿弥陀寺という寺が建てられた。で、そこに芳一という盲目の男が住んでいた」と物語をいつまにか始めているんです

背景説明から自然に物語の主人公に視点が入っていき、いつのまにかストーリーが始まっているという、

映画のオープニングで、遠景からだんだん主人公のところへカメラがクローズアップしていくような、この導入のスムーズな流れが、たまらんのです。

怪談とは、まさに「語り」の文化。小泉八雲先生はあくまで英文での書籍で怪談を発表していた人ですが、この「時代背景からグググっとスムーズに主人公が登場している感覚」はぜひぜひ、怪談語りの際には参考にしたい「テクニック」なのではないかと思うのです!

そして、「わかりやすい文章を書こう」というハナシは自己啓発系含めてたくさん溢れていますが、「短くするだけが読みやすさではない!」「用語をわかりやすくすることだけが読みやすさではない!」実例として『耳なし芳一』をぜひ扱ってほしい。

と、熱く語ったところで、またしても今夜も私は『耳なし芳一』の英文朗読をオーディオで聴きながら眠ることにします。おやすみなさいませ!皆様、運が良ければ、明け方の悪夢の中で会いましょう!

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『妖怪の日本地図・九州沖縄』が示した「妖怪の四グループ」分類に賛同します!

児童向けの本でしたが、とても参考になりました。

千葉幹夫さん粕谷亮美さん、そして石井勉さんによる『妖怪の日本地図・九州沖縄』(大月書店)です。

何が参考になったのか。

この本の序文が、素晴らしい。

厳密には、この本の序文で語られている、妖怪観とよび妖怪の分類が、とても納得できるものなのです。

まず、

夜道を歩いていると、後ろから足音が聞こえますが、ふりむいてもだれもいません。夜の山中、だれもいないはずの場所で大木が倒れる音がします。川から見たこともない手が出てきて、人を水中にひきこもうとします。このように、人にとってふしぎなものやおそろしいことに名前をつけたものが、妖怪のはじまりと考えられます。

『妖怪の日本地図・九州沖縄』(大月書店)

私もこの妖怪観に賛同します。

一点だけ私ごときから意見をさせてもらえるなら、三つ目の例、「川から見たこともない手が出てきて」のところ。それはもうすでに「できあがった妖怪変化」との遭遇になってる気がするので・・・「妖怪のはじまり」を語る例としてはふさわしくないようにも見える。「川に落ちて溺れかけた人が、なんだか見えない手に引っ張られたような気がすると助かった後に言います。これも妖怪のはじまりです」とするなら、とてもよくわかる!まあこれは私の瑣末な異論。

他にも、この短い序文は実に面白い。

上述の箇所に続いて、妖怪を以下の四グループに分類する考え方を述べているのです。すなわち、

・自然現象に対してのフシギから始まったもの

・動物に対してのフシギから始まったもの

・古くなった動画に魂が宿る、という信仰からきたもの

・古代において滅ぼされた地方の小国が由来となるもの

いちばん注目したのは最後のやつです!

明言はされていないですが、大和朝廷に滅ぼされた東北やら九州やら山陰やらのことですよね。これを子供向けの本の中で避けることなく説明しているのは、素晴らしい。

古代において滅ぼされた」勢力の妖怪化を語るならば、「ツチグモ」問題という実に奥行きある深みにハマるのでここではやめますが、

すっきりと整理された妖怪観が、子供向けの平易な文章の中でキチンと表現されていて、こちらの本、たいへんな共感を覚えました!

↓↓↓

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『となりのトトロ』の「ばあちゃん」は妖怪学の天才である!

※画像はジブリ公式サイトでの配布素材を使用しております

日本史上における妖怪学の先達の中で、私が完全にその学説に共感し、その立場を現代に継承しようとしている偉大な人物がいます。

となりのトトロの「ばあちゃん」です。

ところがこの妖怪学者の理論を体得するのは、たいへん難しい。

本人がいっさいの大学機関に身を置かず、在野に隠れて人生を過ごしたという特異な経歴である上に、

その思想をいっさい著作に残さず、口伝のみで周囲に語っていたからです。

よって私たちは、この天才的な妖怪学者の思想を、断片的に伝わるわずかな言説から、再構築するしかありません。

しかし、彼女の言葉は、妖怪理解という点で研ぎ澄まされた迫力を持っており、

わずかな断片でも十分に、後世の妖怪研究者の心を激しく震わせるのです。

一例を挙げましょう。

「ばあちゃん」が、妖怪ススワタリについて語ったとされる、以下の言葉です。

「こりゃ、ススワタリが出たな。だあれもいねぇ古い家に湧いて、そこら中、ススと埃だらけにしちゃうのよ。小ちぇー頃には、わしにも見えたが、そうか、あんたらにも見えたんけぇ」

ここで、その場にいた、普段は妖怪などに興味はないと思われる都会出身の人物が、「それは妖怪ですか?」と、いささか野暮な質問を、「ばあちゃん」にしたとされています。

それに対するこの妖怪学者の返答が、まさに、この人物の天才性を感じさせる、含蓄に富んでいます。

「そったらおそろしげなもんじゃねえ。ニコニコしとれば、悪さはしねぇし、いつの間にか、いなくなっちまうんだ」

どう見ても「妖怪の話」と思われる流れだったのに、「それは妖怪か?」と聞かれると、このようにはぐらかして論理的議論を解体してしまう。この含蓄の豊かさには唸らされます。

しかも驚愕なことには、この「ばあちゃん」、自らが「ススワタリ」だと説明したにもかかわらず、目の前にいた子供たちが対象の妖怪を「まっくろくろすけ」という誤った名称で呼んでいることを完全に許容し、むしろその名前を奨励しているような素振りすら見せるのです。

「それは妖怪であるか、妖怪でないか」など、どうでもよく、

妖怪」という定義も、本来的ではなく、

「ススワタリ」という自分たちの世代がつけた名前が、新しい世代において「まっくろくろすけ」と書き換えられることすらも、「それでよいこと」と許容する。

カテゴリー分けも、名前も、分類も、どうでもよい。彼女が重視したのは、「同じような身体的体験を次の世代にも体験させる」というただ一点の「共感」でした。

これは体型づけや名称にこだわる、井上円了とも、柳田國男とも違う。あえていえば南方熊楠の見解に似ていますが、ある面では熊楠よりも過激です。

妖怪学そのものの学問性すら切り崩しかねない、「身体体験一発のみを追う、ウルトラ現象学者」とでもいいますか!このような発想の人物が、アカデミズムからはまるでノーマークのまま、在野で生涯を終えたことは、しかし彼女の妖怪思想の過激さから見れば、運命だったかもしれないことでした。

だが私は、「田舎にいったとき、廃屋にいったとき、あるいは古い旅館に泊まったときに感じる、ゾワゾワとした、あの身体体験!」、あれこそが妖怪だと思いますし、名前づけや分類わけなどは結局は枝葉の問題、あくまでも身体体験に即して妖怪を感じたい。

私は「ばあちゃん」の思想をそのように理解し、継承していきたいと思うのです!

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『怪異の風景学』(古今書院)が語る「千と千尋の神隠し」からの比喩としての妖怪学のこと

※画像はジブリ公式サイトの公開画像より

佐々木高弘さんの『怪異の風景学』という本にがぜん注目しています。

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ヤーコブソンの言語学に妖怪民話を当てはめてみたり、パースの記号論に妖怪民話を当てはめてみたりと、もっぱら構造言語学と記号論をベースに、日本の「怪異・妖怪」なるものに切り込んでいく試み。

つまりバリバリの構造分析の本ですが、しかし表面的な分析テクニックなどよりも、ずっと注目したいのは、

序章で語られる佐々木高広さんの、妖怪に対する向き合い方。

本書では、妖怪というものを実在するものとは考えていない

という、きっぱりとした宣言に始まり、

しかし妖怪の存在意義は認める。それどころか、もっと正しく評価されるべきと考える

とされています。つまり「実在」を拒否しつつ、「そういうモノがあたかもいるかのように語る意義」は全面的に残そうという立場となりましょうか!

なぜなら、

著者(=佐々木高弘さん)が地域社会に関わる中でしばしば見てきたのは、「客観的データ上、君達の役に立つ」というお上からの押し付けでの大規模開発工事に対して、そこに住む人たちの言語化されざる内的世界が犠牲になった事例をたくさん見てしまった

がゆえの、問題意識からであり、

妖怪のことを知れば、「客観的データ」と「住民たちの内的世界」の矛盾が解決できる議論の土台が築けると安易に考えているわけではないが、何か問題解決の糸口は掴めるのではないか

という期待を妖怪学にこめているからとの旨。

このスタンスには徹底的に賛同できます!

そして面白いのが、佐々木高弘さんは本書の中盤で、映画『千と千尋の神隠し』に触れ、

望んでもいない引っ越しに連れてこられた千尋の車のバックシートでの沈黙と、彼女の心の抵抗にまるで気づかず『この引っ越しはよいもの』とすました顔をしている母親との対比構造は、まさに地域社会の住民と、客観的データしか見ない開発側との間で、対話が成立していないという現代の問題の象徴に見える

としていること。

あー、『千と千尋』を使った、この比喩、なるほど凄くよくわかります!

そして、客観的データしか見ない母親が怪異には実は無力であり、内的世界の言語化がうまくできずにいた千尋のほうが怪異に驚かず立ち向かえたのだ、とまで深読みすると、なおのこと、この比喩的読みは、面白い!

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哲学の練習問題?『身近な妖怪ハンドブック』(文一総合出版)が投げかけてくる分類上の問いかけについて

shallow focus photography of black and green turtle

川村易さんといえば、現象学の西研さんと組んでの、こちらの著作や、

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こちらの著作が印象に残っている方です。

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そんな川村易さんが、なんと妖怪に関する本を出していたとは知りませんでした!それがコチラ!↓

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こちら、驚きの試みに挑んでいる本です。理科の本のパロディになっているのです。

妖怪を、形態や生息地、外来なのか日本土着なのか、そういった生物学的な視線でグルーピングをして紹介していくというもの。

『身近なサカナ』とか『身近な昆虫』とかいった子供向け理科本のパロディとしての『身近な妖怪』ハンドブックというわけです。

企画として面白い!

面白いと思うのですが、、、。

気になった点があるので、率直に申し上げます。なんで「カミツキガメ」が妖怪の一種としてさりげなく紛れて紹介されているのでしょう??w

もしかしてお笑いか?高度な冗談か?それとも批評精神で入れた「気づく人が気づく」ワンポイントというところなのでしょうか?

とにかく、普通に妖怪の紹介本としてページを巡っていると、いきなりのカミツキガメ出現なわけで、私はおおいに驚いた。

は!もしかして、これは「なにをもって妖怪と呼ぶか?」という問いについて、まさに哲学の練習問題、読者に投げかけているということなのか?

厳密な分類」とか「客観的な実在」とかを揺さぶるための哲学的思考実験を仕掛けてきているのか?

きっとそうだ!そうに違いない!

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【鹿児島の怖い話】濱幸成さんの著作から鹿児島にまつわる妖怪・怪異を(ネタバレなしで)整理整頓してみました!

以前以下の記事で、鹿児島県と本ブログ管理人のフシギな縁の話をさせていただきましたが、

その続きとなります。

ここからはいよいよ鹿児島県の「怪談・妖怪」のハナシを掘って行きます。

今回参考文献として紹介したいのは、濱幸成さんの『鹿児島の怖い話〜西郷星は燃えているか〜』

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労作です!

全国を旅しつつ怪談を集めて歩く濱幸成さんが、鹿児島に上陸した時の取材譚です!

城山公園で車中泊をする(「ナニか出てください」と言っているようなものだw!)等、まさに肉弾をもって、鹿児島の怪なるものを探りに行っています。

なかなか鹿児島のような遠方に行けない私のような東京人にとって、このような取材記の試みはきわめて貴重!必読本です!

私自身の読書メモを兼ねて、

本書に登場した妖怪・怪異を以下に整理してみました。鹿児島の怪異に興味のある方、ぜひ参考にしてみてください!

タイトルカテゴリー寸評(ネタバレなし)
城山公園 鹿児島市城山町実話怪談著者の濱幸成さん自らが城山公園で車中泊した時のハナシ。西南戦争がらみのナニモノかと推測
妙円寺実話怪談鹿児島県で収集した実話怪談。お祭りにかかわる不思議なハナシ
心霊写真実話怪談鹿児島県で収集した実話怪談。けっきょく何だったのかよくわからない不安感がとても良き
大きな人妖怪?!鹿児島県で収集した実話怪談だが、こいつは妖怪の類だったのかもしれない!
ごったん実話怪談鹿児島県で収集した実話怪談。「ごったん」という弦楽器をめぐる遺品整理のハナシ
げじべぇ妖怪?!鹿児島県で収集した実話怪談。橋にいたものは、伝承にきく妖怪「げじべぇ」だったのか?
竹の瀬戸心霊スポット島津と菱狩の古戦場
住吉池心霊スポット大蛇伝説のある池。大型魚?それとも大ウナギなのか?考察は尽きない
涙橋心霊スポット藩政時代の処刑場への通り道にして、西南戦争で死者の出た場所
開聞トンネル心霊スポット私も地図と写真で確認したが、見るからにヤバそうなトンネルですね確かに・・・!
上西園のモイドン妖怪?!森殿と書いてモイドン。妖怪というより土地の神サマ
屋久島灯台心霊スポット濱幸成さんが聞いたという「男の叫び声」のナゾが残る・・・
兼喜神社伝説いわゆる御霊神社のこと
若宮神社伝説島津分家を祀る神社のこと
芋焼神社伝説焼き芋を食べてばかりいた人の伝説・・・って、これめちゃくちゃ面白い話ですよ!!
安良神社伝説霧島市横川町にある神社の伝説紹介
波之上神社伝説鹿屋市高須町にある神社の伝説紹介
川上神社伝説指宿市開聞十町にある神社の伝説紹介
平松神社伝説鹿児島市吉野町にある神社の伝説紹介
生き肝取り伝説かつて薩摩の若侍が墓荒らしを退治したという伝説。豪快で豪放な武勇譚なのが薩摩らしい!
戸田観音妖怪?!観音様とセットで祀られている二匹のガラッパ(河童)のこと
江の島弁天伝説鹿児島県にも「江の島弁天」があったとは恥ずかしながら初めて知りました・・・!
十三塚原伝説神社と寺との屁理屈合戦とその始末
池王明神妖怪?!石田湖のイッシー登場!
持明像伝説「白粉つけて」と泣く石仏の伝説
隠れ念仏伝説一向宗の歴史にまつわる伝説
去川の関所伝説「二重鎖国薩摩」の関門を守っていた有名な関所をめぐる伝説
西南戦争伝説鹿児島の怪談を語る上で西南戦争の知識は大前提!西郷星のハナシと西郷ロシア脱出伝説
宝島伝説日本最後の秘境?
竜ヶ水伝説水害を巡る歴史のハナシ
桜島伝説この有名な火山を巡る歴史のハナシ
オットイ嫁女民俗風習いわゆる略奪婚のこと
牛と祭り民俗風習カギヒキ神事とガウンカウン祭り
奄美の風葬洞民俗風習「一部の離島ではもしかしたらまだあるかも」な風葬のハナシ
先島丸民俗風習屋久島の「先島丸」という独特の葬送について
ボゼ妖怪?!吐噶喇列島のひとつ悪石島に伝わる仮面神「ボゼ」のこと。そもそも島の名前が面白い!
トシドシ妖怪?!甑島(こしきしま)に伝わる妖怪。「トシドシは大みそかに首のない馬に乗ってやってくる」

離島における、ボゼやトシドシといった妖怪(厳密には神サマといったほうが正しいかもしれません)を巡るハナシも興味深いですが、

私としては西南戦争関連の怪談や伝説にがぜん着目してしまいます。たとえば西郷隆盛の「ロシアへ脱出して生存している伝説」、これは面白い。当時の明治人にとって、恐ろしくも気になる「外国」といえば真っ先にロシアだったのかもしれません

しかし本書の白眉は、やはり、濱幸成さん自身が城山公園で体験した怪談でしょう。

城山公園で車中泊をしていたら、西南戦争に関連ありそうな怪異が襲ってきた、というもの。

実に貴重な証言と思いました。というのも、幽霊を信じていようと信じていまいと戦争遺跡という場所を観光していると何かしら不思議なことが起こるのは、私自身の経験も含め、よく聞くハナシだからです!

これが何なのか、かつ、日本人だけに起こることなのか世界の他国でも「戦争遺跡」とはそういう場所になるのかは、調査不足、私もまだよくつかめていません。

というわけで、以下の参考文献の紹介でした。鹿児島の怪談妖怪はこれからも掘り下げ続けます。

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怪談好きが薩摩藩史にとりつかれ自顕流剣術の体験訓練まで受けたハナシ

先日、別の記事で、西南戦争と怪談の関係についてのオハナシをしました。

その続きとして、私と鹿児島県の、、、というか、私と薩摩藩の!フシギな縁のことをこちらに書いておきましょう。

snow sea landscape mountains
Photo by Marek Piwnicki on Pexels.com

まず、西南戦争という事件について。

この戦争については私、政府側に対しても西郷側に対しても、安易に「よいわるい」を言わないようにしております。とても複雑な背景の内戦ですからね。

ただし、そんな私、

「誰がよいわるい」関係なく、薩摩のお侍さんというものにとても縁があります。というのも、

ある時、トルコのフリー紙のライターさんから、「日本文化の紹介記事をやってほしい」と仕事の依頼があり。

それを受けて、

薩摩自顕流の道場に取材に行き、その結果を英語記事にまとめトルコの日本紹介サイトに掲載してもらう、という企画をやったのです。

※その時の内容は私のnoteに上がっています。英語版がコチラで↓

※日本語版がコチラです↓

この時、自顕流道場の方から木刀を持たせてもらい、存分に稽古を体験させてもらった上に、

東郷平八郎元帥の話など、薩摩出身の軍人や政治家の話をいろいろとさせてもらえました。めちゃくちゃ面白かった。

その際の印象の結論。

薩摩というのはやはりなんだか底が知れず面白い!

それどころか、薩摩の自顕流道場の方々と話をしていた時、「もしかすると、日本人の美質とか日本人の良さとか一般にステレオタイプでイメージされているものの大半は、薩摩人から来ているのでは?」と思ったくらい、彼らの雰囲気、豪快でありつつおおらかで気持ちがよい。昔の日本人の輪に入った外国人みたいな不思議な気持ちになった。私だって日本人なのに、「ああこれが本で読んだことのある日本人なのかあ」という、妙な感情が湧いてきて。

思えば、かの司馬遼太郎氏も、私が愛読するこちらの本、

『鹿児島百年』の序文で、

歴史を読むとき、ときに薩摩人は日本人の中でもとくに優越人種なのであろうかと思うときが多い

と大胆なことを書くほどに、薩摩に惚れ込んでおりました。

その司馬遼太郎氏も『翔ぶが如く』の後半ではどこか陰鬱な展開でしか政府軍と西郷軍の潰し合いを書かなかった。そうなんです、それくらい、西南戦争は振り返り見ても辛くて暗くて扱いにくい。

ですが、そんな私が、けっきょく今また怪談妖怪というジャンルから鹿児島近現代史に接近しているところ、自分でもおかしみを感じています。

そうです、鹿児島も怪談や妖怪のハナシには事欠きません。

そんな方面と史実をつなげて考えようとする私は相当変わっていると思いますが、、、怪談や妖怪には歴史上の人たちの思いや気持ちが入り込んでいるはずだ、そう思えばまるで見当違いなアプローチでもないはずです。たぶん、、、。

さて。

いくつか、そんな私がビビっときた本の紹介をさせてください。

まず「西南戦争と怪談」ということであれば、先日も触れた石牟礼道子さんの『西南役伝説』が面白い。取材したのは熊本側ですが、西南戦争での戦没者がどのように「伝説化」したかが、当地の人々の口伝怪談の取材から蘇ってきます。怪談取材が目的の本ではありませんが、怪談好きにはめちゃくちゃ興味深い証言の宝庫。

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最近のものでは濱幸成さんの『鹿児島の怖い話-西郷星は燃えているか』が面白かった。濱幸成さんが城山で車中泊をして、案の定といいますか、いろんな怖い目に遭います。そのハナシも面白いのですが、「げじべぇ」とか「ボゼ」とかいった、鹿児島県に伝わる妖怪や土着神(?)のハナシの取材が、貴重でとても興味深かった。

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最後に、「中心人物の西郷隆盛のことをもっと知りたい」という方にはAmazonからKindle形式で出ている『西郷隆盛漢詩全集』がオススメです。現代人には難しい平仄法の話なども細かく解説してくれるので漢詩の勉強にもなります。今更ながらですが、西郷隆盛の漢詩などが電子書籍でガンガン読むことができる現代というのは本当にすごい!

『西南役伝説』(石牟礼道子)のちょっと変わった読み方を試みる

もともと読むのが大変に難しい本です。

石牟礼道子さんの『西南役伝説』のことです。

文体も、語彙も、ぜんぜん難しくない。でも、読むのが破格に難しいのです。

というのも、この本は熊本県水俣の老人たちに、西南戦争の話として親や祖父母から口伝で聞いた話を取材したものなのですが、水俣病のドキュメンタリーで功績のある石牟礼さんのこと、よくもわるくも、ご本人の「編集」が入ってしまっているのです。

ハッキリ言いますと・・・どうしても、取材した老人たちが、ことごとく「戦争はいけないものだなぁ」「戦争はバカバカしいことだったなぁ」という意見を表明している。太平洋戦争についての語りならともかく、彼らにとっても「聞いた話」でしかない西南戦争のことが、こんなにも反戦テーマに結びつくのだろうか、と、ウクライナ問題や台湾問題に揺れる現代人の私にはどうも注意深くなってしまいます。

「反戦」の目がどうも入ってしまう編集方針の本だから悪い、ということではありません。

この本で書かれていることを持って、「そうか、西南戦争というものも熊本の一般庶民には悪として、冷ややかに見られていたのか」と解釈してしまうことにいささかの危なさを感じるという意味です。

ただし、

そういう編集方針がかかっている本である、ということをあらかじめアタマに入れた上で冷静に読むならば、西南戦争を多面的な証言で見ることができる、という意味でこんなに有益な本もない(それだけに、著者および編集者の「脚色」がかすかに入っているらしい点が、めちゃくちゃ、惜しくてならない!)。

そして、怪談・妖怪好きの私が本書を取り上げた理由は、もうひとつあります。

西南戦争後、日露戦争に従軍した熊本の若者が、旅順の地で心がくじけそうになったとき、西郷隆盛の霊の幻影を見た、という証言

「西南の役が終わった後は、幽霊がたくさん出てしまって本当に大変だった」という率直な時代の証言!!

などなど、怪談や妖怪に興味を持つ人間としては、そのような細かいところで出てくる証言にいちいち、「これは!」と思うところがある。

こういう箇所だけを拾っていくと、何をおいてもまず、西南戦争が巻き込まれた人々のココロの中では、まず「怪談」「幽霊譚」「怪異のウワサ」として記憶され、語り継がれたのだということがわかるのです。そしてこれは、怪談とか妖怪とかいうものと「実際の歴史」の関係に興味を持つ身としてはたいへんに興味深い。

もちろん、

いうまでもなく、石牟礼道子さんの『西南役伝説』の読み方としては、

「怪談」や「怪異のウワサ」として読める証言だけを拾っていく、というのは、いささか変わった読み方となります。

ですが、もともと扱いの難しいこの本から、「戦争に巻き込まれた人たちが、終戦後、どのような幽霊や怪談を信じたか」という証言だけを取り出し、考察していくという読み方は、西南戦争に向き合う(※戦争全般に向き合う、ではないので注意!)人の一つの在り方として、面白いかもしれないのではないか、と思った次第でした。

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『えひめの伝説(妖怪編)』に登場する妖怪たちを並べてみました

今回は愛媛県の妖怪たちのことをもっと知ろうというテーマの記事となります。参考書として、こちらの本を紹介します!↓

本書に登場する愛媛妖怪たちをズラリとリスト化して、愛媛県の妖怪一覧表としてみました!

この本の中で紹介されているエピソードを引用するわけにはいきませんが、これだけでも愛媛県にどんな妖怪話があるかの概要把握には使える筈かと。

※もっともこの本、注釈で簡単に触れられているものまで含めると収められている妖怪数はあまりに膨大で、ここに全部を載せることはとてもできませんでした旨、お断りしておきます💦

正直、新書の形式でこれだけの情報量は、素晴らしい本と思います!

登場妖怪名出現地
エンコ(河童)四国中央市・西予市・今治市・愛南町・ほか
竜宮久万高原町
龍神四国中央市
蛇池今治市
うすぐも姫と蛇西条市
大蛇淵の大蛇新居浜市
湧ヶ淵の大蛇松山市
牛鬼宇和島市・大洲市・西条市ほか
ぬれおなご・針女愛南町
小豆洗い愛南町
船幽霊大三島ほか
あいぞうの火松山市
おおだこ今治市
天狗西条市・四国中央市・愛南町・松山市・ほか
山爺・山姥東温市・上島町・西予市・久万高原市ほか
山女郎久万高原市
サトリ松山市
アマノジャク西条市・久万高原市・宇和島市・砥部町
ヤマイヌ四国中央市・伊予市ほか
ふだる神四国中央市
ひだるご砥部町
袂雀愛南町
四国狐の頭領松山市(※狐たちを引き連れて四国から出ていったので今はいない。四国に狐が少ない理由)
八百八狸松山市
喜左衛門狸西条市
首なし馬松山市ほか
猫又上島町
大藤谷の化け猫鬼北町
大蜘蛛鬼北町
食わず女房の蜘蛛バージョン松野町
高坊主今治市
おおひと今治市
七人ミサキ伊方町
村芝居のミサキ伊方町
楠木正成!?松前町
ひじりんくぼ大洲市
学信の母今治市
妖鬼の面西条市
幽霊の片袖新居浜市
松根の生首の旗宇和島市立伊達博物館!

補足として:
私が個人的に気になったものは、「小豆洗い」でしょうか。妖怪図鑑的なものでは「音がするだけ」としばしば紹介されていますが、愛媛の小豆洗いは本気で人を殺しています

あとは「山女郎」。こちらも、本気で人間を殺しにかかってきます。にっこりと笑ってくる若い女であり、それに笑い返すと、殺されるとのこと。こいつは危険な妖怪だ!

あとは、「サトリ」ですかね。人間の心が読めるという有名妖怪ですが、獣の姿ではなく、松山に出たやつは口が裂けた老人の姿。焚き火にくべていた青竹が破裂すると、「予想外のことが起きた」とビックリして逃げていったそうです。人間の心を読めるという一見チート能力の妖怪が、「偶然の出来事」には弱いというのは、なんだかロボットを相手にするSFホラーのオチのようで面白かった!

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「妹の力」を柳田國男先生の命日に読む

ところで、本日、八月八日。

フォークロア好き・妖怪好きには大事な話、柳田國男先生の命日です。

命日ということで、柳田國男先生の本をひとつ手に取ろうと思い、本棚から手に取ったものが、『妹の力』でした。

妹の力 (角川ソフィア文庫) [ 柳田 国男 ]

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こちら、書名は「妹の力」となってはおりますが、

いわゆる「兄妹」の妹のみならず、日本古来の伝承や民藝の中に生きる「女性像」とその力を徹底的に追いかけたものです。

なんとも壮大な対象を扱った作品ですが、柳田國男先生の著作に顕著なように、膨大な事例と考察を展開した上で、残りの考察を後世にボンと宿題のように提示して終わっているところがあります。

読んだ人間が自分なりに「日本における『女性』とはなんだろう?」というテーマを受け止めて、展開して、はじめて意味が出てくる本となりましょうか。

そして言うまでもなく、「男女共同」というテーマが重要になってきている今日にあっては、ますますこの問いは重きを増しているわけですし、

柳田國男先生の考察をそのまま受け入れれば終わり、というわけにもいかない複雑な陰陽を孕んでいることは周知の通り。

しかし、柳田國男先生いわく、

「ところが今日のもの知りには、卑俗なる唯物論者が多く、かくのごとき兄妹間の新現象をもって、単純なるエロチシズムの心理に帰せんとし、一方にはまた常習の悲観家なる者がこれと合体して、往々にしてこれによって解放の弊をさえ唱えんとするように見える。しかしその観察は明瞭に誤っている。」

「それにはまず女性自身の、数千年来の地位を学び知る必要がある。これをわれわれのような妹を持たぬ男たちに、一任して顧みないのはおかしかったと言い得る。人間の始めたことに本来意味のないことはありえないのに、これを迷信などと軽く見てしまって考えてみようともしなかったのは、同情のない話であったということを、改めて新しい時代の若い婦人たちに説いてみる心要があると思う。」

という指摘はごもっとも、と私なんぞは思ってしまう。

「昔の日本人が女性というものをどう見ていたかなんて、どうせ迷信と偏見のカタマリに決まっている」と頭から拒絶するのではなく、

数千年の生活の中でひとびとがどう考えてきたかを見るところから始めること、決して悪いことではないと思うのですが如何に??

おっと、ところで!余談ながら!

「柳田國男先生の本に、いわゆる『うつぼ舟』伝説についての考察がある筈ですが、どこに載っていますか?」と道に迷った方へ。この『妹の力』の中に、まるまる一章、日本各地のうつぼ舟伝説を扱っている箇所があります。そしてこの章、単体で読んでも、めちゃくちゃ面白いです!

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