【アリス】『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』で有名な御仁。ですが本対話篇のキャラ付けは、どちらかといえばAmerican McGee’s Aliceの影響を受けています
【チェシャ猫】こちらも『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』で有名な上、ボルヘスの『幻獣事典』にも晴れて(!)採用された有名キャラ。ですがこちらもAmerican McGee’s Aliceのキャラ設定に寄せています
ねえねえ、チェシャ猫さん。どうせ今日もヒマな筈のあなたに、ちょっと聞いてみたいことがあるんだけど
おやおや、どうしたんだいモヤッとした顔をして?三時のお茶の時間を逃しちゃったのかい?
わたしにかぎってお茶の時間を逃すわけがないでしょう?いえ実はね、昨日、いわゆる和製ホラー映画の有名作でも見てみようかなと思って、三池崇史監督の『着信アリ』という映画を観たの
君が相変わらずみずみずしい好奇心を持ち続けてくれているようで私も嬉しいかぎりだよ。しかも『着信アリ』とはいいチョイスじゃないか。で、感想は?
あなたこそ、相変わらずおしゃべり好きで付き合いがよいのは、私も助かるわ。まさに、誰かに感想をきいてほしかったの。でね、とても怖くて、とてものめり込んじゃったんだけど・・・
「ラストの意味がよくわかんなかった」っていうんだろ?
あら、さすが!
いわゆるJホラー映画を見た人から「細かいところがよくわかんなかった」っていう質問は、ありがちな事だからね。そのうえ『着信アリ』については怪異の原因となっている幽霊の正体も、二転三転して、わかりにくいからね
柴咲コウさん演じる、ヒロインの中村由美の言動も、後半、なんか謎めいてきちゃうし
実はあのヒロインの設定が一筋縄じゃなかった、、、ていう展開に進むハナシだからね
そう。そこで、思いついたことがあるの・・・!
ホラー小説にも詳しいチェシャ猫さんのことだから、きっと原作小説を読んだことがあるんじゃないか、と思って。チェシャ猫さんに聞いたら、きっと、映画版ではいまいち「謎」だったシーンや展開の詳細を、原作との比較から教えてくれるんじゃないかなと
なるほど。しかしそれは、原作小説には映画では語られていない細部についての描写がしっかり書き込まれている、という前提があってのことだね
あれ?もしかして、原作小説のほうでも、映画版で曖昧だったところは、謎のまま?
それは「モノの見方」によるね
出た!あなたらしい言い方ね
まぁ、私なりにまとめて言わせてもらえるなら、小説版には映画版よりも主人公の内面や事件の背景についての補足が盛り込まれているのは確かだ。でも、正直、ラストの「もやっ」と感はあんまり変わらないかな・・・あのラストはパート2につなげる意図バリバリの「おもわせぶり作戦」なので、どうしてもね
へえ。それでも、映画では曖昧になっている部分について、小説版ではどんな説明がされていたのか、知りたいな
そうか。そんなら、私なりに思い出せる「小説版のみ描かれているポイント」をいくつか話していこうか
ぜひお願い。でもそうなると、この記事は「ネタバレ注意」ってことになるわね
まあね。この記事を読むなら「映画版第一作についてはネタバレ含む」との御了承は頂かねばならないね
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あらためて、小説版の紹介を貼っておこうか
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いまさらだけど、表紙怖いね
映画版のDVDジャケットよりも、家に置いておくのにはるかに躊躇する禍々しさだな
そして、これもいまさらだけど、秋元康先生なのね
映画版は三池崇史監督のスタイルが炸裂してたからな。小説版は、よくもわるくも、難しい箇所はなくスイスイと読める感じ、紛れもなく秋元康先生って感じだった
小説版は三人称で書かれているのね
そうだね。だが、主人公である中村由美の内面の描写は、かなり細かく書かれていたりする。たとえば・・・
映画版にも出てくるシーン。大学の講義中に、主人公由美の友達である「なつみ」が、ケータイをいじっていて教授に怒られるところだが。あそこで、少し意外な、由美の内面描写があるぞ。「私は本当に児童心理学を勉強したくて大学に来たのに、この子たちとの熱意の違いに戸惑ってばかりだ」という意味のことが書いてある
へえ!ちょっと意外!でも、由美自身も虐待の犠牲者だったっていう後半の展開を考えると、重要な伏線ね?彼女は自分の過去のトラウマを振り払いたくて必死に生きてた、そこが幽霊に対する弱点になったってことだものねそれ、大事な伏線よね?映画版にも入れ込めばよかったのに
だが映画版では、このあたりの主人公の内面描写はすべて省略されたかわりに、柴崎コウさんの、あの「どこか陰気な女子大生」由美役の演技表現があった、ともいえるぞ
あー、そうね。たしかに、あの映画の主人公、「めちゃくちゃ美人なのに、なんでこんなに表情が乏しくて、無口なんだろう?」って違和感がずーっとあるものね。あの違和感が、小説的な「説明」の代わりに持ち込まれた伏線だったのかな
そう考えると、ホラー映画としてはこのほうが正しい表現とも言えるだろ?
他に何か、大きなところで、原作と映画との違いはあったの?
原作だと藤枝が死ぬことかな
藤枝ってだれ?
なつみが死ぬところをドキュメンタリー番組に撮ろうとしてた、いけすかないTVディレクターだよ
あー!あいつね!映画版でも吐き気がするほどイヤな奴だったわね!そうなの?原作では死ぬの?いい気味ね。同情の気持ちナシ
冷たいなあ。でもまあ、あんなに「コイツ死んでほしいな」と思わせるイヤな奴を登場させておいて、その末路についてはまったく無視した三池崇史監督と、ちゃんとデスシーンを用意した秋元康先生との違いを考えると、ここ、けっこう面白いだろ?
そうね。イヤな奴がちゃんと死ぬ、秋元版は、読者を安心させるところがあるわね
三池監督は観客をぜったい安心させてくれないから
問題のラストシーンについては、原作ではどうなっているの?
流れはまったく同じだよ。すべての元凶は、毬恵よりも、美々子であったことがわかる。そして、中村由美は、なかば「自分から」美々子に憑依されて、山下を包丁で殺す
え?あれって美々子の憑依だったの?
そうだよ?映画版でも、それ以外に解釈のしようがないじゃないか
いやそれはそうだけど、なんか、映画版だといっさいの説明がなく、突然、柴崎コウさんが綺麗な白いドレスを着てでてきて、満面の笑顔をうかべて、「???」で終わりだから
もちろんワザとだろう。あそこまで盛り上げた映画を、わかりやすく終わらせるのもどうか、ということで、あのエンディングだったんじゃないかな。実際、原作を読んで、「美々子の憑依だった」っていう明記があるのを確認できたところで、あの映画の印象からすると「だからなに?」ってとこじゃないか?
そうねえ。あの「夢か現か」の病室シーンの美しさを考えると、説明をされたところで、特に印象変わらないわね。・・・って、チェシャ猫さん、もしかしてめちゃくちゃ三池監督のこと好きなのね!?
ありがとうチェシャ猫さん。なんだか、原作側の雰囲気もわかったわ。でも、映画版の「謎」を補完する描写があるなら、読んでみたくなっちゃったかな
読んだらいい。さっきも言った通り、秋元康先生のこと、とても読みやすいので、あっというまに読み切れる筈だ
そして、やっぱり、悔しいけど、あんな終わり方をされると続編が見たくなってくるね。今夜、『着信アリ2』見てみようかな
いいじゃないか。そうしなよ。まあ、『着信アリ2』はまた別の主人公の別の話になるので、謎は解決どころか、ますます回収されない伏線がとっ散らかるとも言えるがね。それはそうと、和製ホラー鑑賞もいいが、たまには君、不思議の国へ戻って来てはくれないのかね?帽子屋も三月ウサギもヒマを持て余しているようで、私も彼らの相手に困っているのだがね
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