姜竣さんの著作『紙芝居と<不気味なもの>の近代』では、今日で言うところの「ホラー」表現の前史が、昭和初期の紙芝居に求められているのが、とても面白い。
『猫少年』とか『怪人ゴーラ』とか『墓の呪い』とかいった、戦前戦中期の紙芝居の「ホラー系」作品が紹介されているのですが、まさにノリも絵柄も今日でいうホラー漫画と同じ。正直なところ私も、日本の「ホラー」とか「怪談」とか「怪奇幻想モノ」とかを追いかけてきた中で、紙芝居というメディアはまったくノーマークでした・・・!
これに気づかせてくれただけでも本書を読んだ甲斐はありました。
とりわけ、水木しげる先生の『ゲゲゲの鬼太郎』『墓場の鬼太郎』の前に、そのモトネタと思われる『墓場奇太郎』なる紙芝居が存在していたというのは、重大な指摘ではないでしょうか。これを知っている人は、なかなかいないように、私には思われる。
ただし本書を一般読者が読む上では弱点が。タイトルが予感させているとおり、フロイトやラカン、アガンベンやクリステヴァ、レヴィ=ストロースやフーコーといった、フランス(一部ドイツ・イタリア)現代思想ばりばりな本だということです。それがいけないというわけではないけれど、一般読者の立場に立つと、こんなに面白い本を扱っているのに、こんなに読みにくい本もない、ということになる。とまれ、私としては、権力非難とかエピステーメーとか文化装置とかいった「いかにも現代思想だなぁ」という議論に興味のない人は、本書に出てくる「これはフーコーのいうところの〇〇である」「あれはアガンベンのいうところの〇〇である」といった箇所は、ぜんぶ読み飛ばしても構わない気もする。
紙芝居と〈不気味なもの〉たちの近代 (越境する近代 4) [ 姜 竣 ] 価格:3,740円 |