『着信アリ』の映画では謎が残ったところを原作小説で補完してみた(※ネタバレ含みます)

本対話篇の登場人物

【アリス】『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』で有名な御仁。ですが本対話篇のキャラ付けは、どちらかといえばAmerican McGee’s Aliceの影響を受けています

【チェシャ猫】こちらも『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』で有名な上、ボルヘスの『幻獣事典』にも晴れて(!)採用された有名キャラ。ですがこちらもAmerican McGee’s Aliceのキャラ設定に寄せています

とある夏の夕暮れのアリスとチェシャ猫

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ねえねえ、チェシャ猫さん。どうせ今日もヒマな筈のあなたに、ちょっと聞いてみたいことがあるんだけど

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おやおや、どうしたんだいモヤッとした顔をして?三時のお茶の時間を逃しちゃったのかい?

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わたしにかぎってお茶の時間を逃すわけがないでしょう?いえ実はね、昨日、いわゆる和製ホラー映画の有名作でも見てみようかなと思って、三池崇史監督の『着信アリ』という映画を観たの

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君が相変わらずみずみずしい好奇心を持ち続けてくれているようで私も嬉しいかぎりだよ。しかも『着信アリ』とはいいチョイスじゃないか。で、感想は?

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あなたこそ、相変わらずおしゃべり好きで付き合いがよいのは、私も助かるわ。まさに、誰かに感想をきいてほしかったの。でね、とても怖くて、とてものめり込んじゃったんだけど・・・

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「ラストの意味がよくわかんなかった」っていうんだろ?

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あら、さすが!

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いわゆるJホラー映画を見た人から「細かいところがよくわかんなかった」っていう質問は、ありがちな事だからね。そのうえ『着信アリ』については怪異の原因となっている幽霊の正体も、二転三転して、わかりにくいからね

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柴咲コウさん演じる、ヒロインの中村由美の言動も、後半、なんか謎めいてきちゃうし

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実はあのヒロインの設定が一筋縄じゃなかった、、、ていう展開に進むハナシだからね

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そう。そこで、思いついたことがあるの・・・!

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映画版ではわかりにくかった「謎」は原作小説を読むと解決する?

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ホラー小説にも詳しいチェシャ猫さんのことだから、きっと原作小説を読んだことがあるんじゃないか、と思って。チェシャ猫さんに聞いたら、きっと、映画版ではいまいち「謎」だったシーンや展開の詳細を、原作との比較から教えてくれるんじゃないかなと

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なるほど。しかしそれは、原作小説には映画では語られていない細部についての描写がしっかり書き込まれている、という前提があってのことだね

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あれ?もしかして、原作小説のほうでも、映画版で曖昧だったところは、謎のまま?

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それは「モノの見方」によるね

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出た!あなたらしい言い方ね

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まぁ、私なりにまとめて言わせてもらえるなら、小説版には映画版よりも主人公の内面や事件の背景についての補足が盛り込まれているのは確かだ。でも、正直、ラストの「もやっ」と感はあんまり変わらないかな・・・あのラストはパート2につなげる意図バリバリの「おもわせぶり作戦」なので、どうしてもね

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へえ。それでも、映画では曖昧になっている部分について、小説版ではどんな説明がされていたのか、知りたいな

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そうか。そんなら、私なりに思い出せる「小説版のみ描かれているポイント」をいくつか話していこうか

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ぜひお願い。でもそうなると、この記事は「ネタバレ注意」ってことになるわね

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まあね。この記事を読むなら「映画版第一作についてはネタバレ含む」との御了承は頂かねばならないね

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原作版『着信アリ』はこんな小説

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あらためて、小説版の紹介を貼っておこうか

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いまさらだけど、表紙怖いね

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映画版のDVDジャケットよりも、家に置いておくのにはるかに躊躇する禍々しさだな

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そして、これもいまさらだけど、秋元康先生なのね

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映画版は三池崇史監督のスタイルが炸裂してたからな。小説版は、よくもわるくも、難しい箇所はなくスイスイと読める感じ、紛れもなく秋元康先生って感じだった

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小説版は三人称で書かれているのね

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そうだね。だが、主人公である中村由美の内面の描写は、かなり細かく書かれていたりする。たとえば・・・

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由美はなつみを少し軽蔑してた?!

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映画版にも出てくるシーン。大学の講義中に、主人公由美の友達である「なつみ」が、ケータイをいじっていて教授に怒られるところだが。あそこで、少し意外な、由美の内面描写があるぞ。「私は本当に児童心理学を勉強したくて大学に来たのに、この子たちとの熱意の違いに戸惑ってばかりだ」という意味のことが書いてある

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へえ!ちょっと意外!でも、由美自身も虐待の犠牲者だったっていう後半の展開を考えると、重要な伏線ね?彼女は自分の過去のトラウマを振り払いたくて必死に生きてた、そこが幽霊に対する弱点になったってことだものねそれ、大事な伏線よね?映画版にも入れ込めばよかったのに

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だが映画版では、このあたりの主人公の内面描写はすべて省略されたかわりに、柴崎コウさんの、あの「どこか陰気な女子大生」由美役の演技表現があった、ともいえるぞ

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あー、そうね。たしかに、あの映画の主人公、「めちゃくちゃ美人なのに、なんでこんなに表情が乏しくて、無口なんだろう?」って違和感がずーっとあるものね。あの違和感が、小説的な「説明」の代わりに持ち込まれた伏線だったのかな

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そう考えると、ホラー映画としてはこのほうが正しい表現とも言えるだろ?

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納得?原作だと藤枝は死ぬ

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他に何か、大きなところで、原作と映画との違いはあったの?

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原作だと藤枝が死ぬことかな

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藤枝ってだれ?

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なつみが死ぬところをドキュメンタリー番組に撮ろうとしてた、いけすかないTVディレクターだよ

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あー!あいつね!映画版でも吐き気がするほどイヤな奴だったわね!そうなの?原作では死ぬの?いい気味ね。同情の気持ちナシ

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冷たいなあ。でもまあ、あんなに「コイツ死んでほしいな」と思わせるイヤな奴を登場させておいて、その末路についてはまったく無視した三池崇史監督と、ちゃんとデスシーンを用意した秋元康先生との違いを考えると、ここ、けっこう面白いだろ?

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そうね。イヤな奴がちゃんと死ぬ、秋元版は、読者を安心させるところがあるわね

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三池監督は観客をぜったい安心させてくれないから

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ラストは美々子の「憑依」だった?

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問題のラストシーンについては、原作ではどうなっているの?

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流れはまったく同じだよ。すべての元凶は、毬恵よりも、美々子であったことがわかる。そして、中村由美は、なかば「自分から」美々子に憑依されて、山下を包丁で殺す

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え?あれって美々子の憑依だったの?

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そうだよ?映画版でも、それ以外に解釈のしようがないじゃないか

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いやそれはそうだけど、なんか、映画版だといっさいの説明がなく、突然、柴崎コウさんが綺麗な白いドレスを着てでてきて、満面の笑顔をうかべて、「???」で終わりだから

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もちろんワザとだろう。あそこまで盛り上げた映画を、わかりやすく終わらせるのもどうか、ということで、あのエンディングだったんじゃないかな。実際、原作を読んで、「美々子の憑依だった」っていう明記があるのを確認できたところで、あの映画の印象からすると「だからなに?」ってとこじゃないか?

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そうねえ。あの「夢か現か」の病室シーンの美しさを考えると、説明をされたところで、特に印象変わらないわね。・・・って、チェシャ猫さん、もしかしてめちゃくちゃ三池監督のこと好きなのね!?

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まとめ

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ありがとうチェシャ猫さん。なんだか、原作側の雰囲気もわかったわ。でも、映画版の「謎」を補完する描写があるなら、読んでみたくなっちゃったかな

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読んだらいい。さっきも言った通り、秋元康先生のこと、とても読みやすいので、あっというまに読み切れる筈だ

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そして、やっぱり、悔しいけど、あんな終わり方をされると続編が見たくなってくるね。今夜、『着信アリ2』見てみようかな

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いいじゃないか。そうしなよ。まあ、『着信アリ2』はまた別の主人公の別の話になるので、謎は解決どころか、ますます回収されない伏線がとっ散らかるとも言えるがね。それはそうと、和製ホラー鑑賞もいいが、たまには君、不思議の国へ戻って来てはくれないのかね?帽子屋も三月ウサギもヒマを持て余しているようで、私も彼らの相手に困っているのだがね

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『オーメン2/ダミアン』は悪くないと、「キャラクター死亡率」まで出して擁護してみた回(※ネタバレあり)

a broken wooden crucifix leaning on concrete

a broken wooden crucifix leaning on concrete
Photo by KoolShooters on Pexels.com

『オーメン2/ダミアン』とは?

ホラー映画シリーズ『オーメン』の第二作が、『オーメン2/ダミアン』。

後光の差すほどの傑作(悪魔を扱った映画で「後光が差す」という表現もナンですが)だった第一作に比べると、「第二作は微妙」「演出が雑」といった声も多々あるようで。

かくいう私も、第一作絶賛者

そんな私の、第二作への感想はといいますと。

いや、どうしてなかなか、優秀作だと思っておりますよ!?

以前のこちらの記事でも述べた通り、第三作にはいろいろと言いたいことのある私ですが、第二作は悪くない。

「第一作と比べると何かが違う」?

いやいや、そうじゃないと思うんです。

この第二作は、かなり努力して、「第一作とは違う路線」に振り切っているんですよ。それが悪くない!

どういことか?説明しようと思います。なお、以下はネタバレを含みますので、未視聴の方はご注意ください。

スラッシャー路線に振り切った第二作(ネタバレあり!)

有名になりすぎた第一作を引き受けた続編として、どこがよいか?

今回はスラッシャー映画に路線を振り切っているんです!

これは正しい判断だったと思います。

というのも・・・

メイキングのウラバナシですが、かの第一作の監督をしたリチャード・ドナーは、制作会社から「もっとバンバン、人が死ぬ場面を増やせ」というプレッシャーを受けていたのに抵抗していた人なのですね!(第一作のDVD特典映像で、リチャード・ドナー氏自らが、「映画会社はスラッシャー映画にしてしまおうとしてきたが、そうはさせるかとふんばった」と証言しています)。

たしかに!

第一作で、悪魔および悪魔崇拝者の仕業(とみられるもの)で死んだキャラクターは、たったの4人なのです(※私カウントです、あしからず)。

ところが、この『オーメン2/ダミアン』はどうか。

これもまた、私の数え方にはなりますが、

悪魔および悪魔崇拝者の仕業(とみられるもの)で死んだキャラクターは、12人なのですw。

これ、凄いことです。だって、オーメン2の上映時間は111分なのですよ?

つまり・・・

約9分に1人の割合で人が死んでいる??w

平均をとると、まぁ、そういうことです。約9分に1人!?

まぁ、今回は、「2人まとめてサクッと1シーンで死亡」するパターンも複数あるので、単純計算した場合の話にはなりますが。そうは言っても、多いです。『チャイルドプレイ』とか『エルム街の悪夢』とかの有名ホラーでも、110分で12人というのは、あんまり見たことがないペースではなかろうか!?

そう計算してから、あらためて、オーメン2を見直してみると、なるほど!

たしかに、頻度がハンパないんです。

物語が進んだら、

こわーい音楽が流れてきて、ブシャ・グシャ・ギエー!

その人のお葬式シーンが出てきて、またちょっと、登場人物たちのドラマが進んだら、

またこわーい音楽が流れてきて、ブシャ・グシャ・ギエー!

さくさくと人が死んでいく映画なんです。序盤で紹介された、名前のあるキャラクターは、111分以内に文字通り全滅してる(悪魔崇拝者側のキャラは除く=別の見方をすると、名前のあるキャラで死ななかった奴は全員「あちら側の勢力」と見てよい・・・運転手だけは違うっぽいけど、たぶん)。

このスラッシャー映画方針の採用、悪くないですよ。

「どうしたって、あの第一作のインパクトにはかなわないんだからさ。サクサクと死亡シーンが連続する、殺人ショーにしちゃおうよ」

と製作者側が割り切ったようなスピード感。

そして、有名なエレベーターでの必殺大切断のように、それぞれの死亡シーンにけっこう手間かけているんですね。もう殺人ショーだ。生き埋めになったり、農薬にまみれたり、氷の池に落ちたり、カラスにチクチクやられたり、みんな大変。一人だけ、ベッドで寝ている時に例の怖い音楽が流れてきて、何が起こるのかと思いきや「ああ、急に胸が苦しい」と病死してしまうだけの地味なデスシーンもありましたが・・・さすがに予算が追っつかなくなったのかもしれません。

観ているほうも、趣味の悪い言い方ですが、「さあて、次は誰が死ぬのかなー」というドキドキ感で見ちゃうんですね。

そして確かに、最後のほうになると、観ているほうも、キャラクターがコーヒーメーカーひとつ操作しただけで「もしかしてこの機械が故障して凶器になるのでは?」と、画面に映るものすべてに警戒してしまうんですね。ファイナル・ディスティネーションみたいなもんだ。

雰囲気オシだった第一作と、まっこう勝負をせず、

スラッシャー映画としてサクサク人を死んでいく豪快さにもっていった第二作。

悪くないんじゃないでしょうか?!

まとめ

というわけで、私のオーメン三部作への感想を整理しますと。

第一作は、紛れもない傑作!

第二作は、酷評する人も多いけど、私は「かなりがんばった優秀作」とみている

第三作は、そんな私も、弁護のしようがない💦

というところです。

でもですね、『オーメン』シリーズ全体の評価に関わる話を、もうひとつだけ、させてください。

この第二作、シリーズ全体の位置づけとして、めちゃくちゃ大事な点があるんです。

第二作では少年に成長している、ダミアン君のことです。

彼、この第二作の中で、自分の頭皮に「666」の痣があることに、どうやら生まれて初めて気づくんですけど。

そのとき、めちゃくちゃビックリしているんですよ!

これ、私には意外だったんです。

「え?ダミアン君って、てっきり最初から自分が悪魔だと自覚しているもんだと思ってたのに!?」と。

本人がそれに気づいていなかったとなると、いろいろ、物語の解釈が変わってくるんですね。

良い意味で、深みが出てくるんです。

だって・・・第一作で、グレゴリー・ペックに車に押し込められた時にブルブル震えていたのは、「子供のフリして父親を混乱させている悪魔のやりくち」ではなくて、

本気で「お父さん、なにするの??」と怖がってたことになりますよね。

そして「前作から7年後の物語」ということは、ダミアンは第二作のタイムラインで13歳くらい。

思春期のさなかに、自分が悪魔の子だと気づいてしまう少年の話でもあるんです。

ということは、ラストシーンで見せたあの涙も、ウソの涙じゃないわけだ。

第一作では、「あどけない子供のフリをしているが、きっと腹の底では恐ろしいことを考えている悪魔なんだ!」と思っていたダミアン君が、実は複雑な内面を持った子供だとわかってしまう第二作。

そういう面からも、第一作をよくぞここまで深掘りしたと言いたい優秀作と思いますし、

ますます・・・第三作が残念に見えてきちゃうなぁ。中継ぎがここまで好投したのにねえ・・・!

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映画『オーメン最後の闘争』のよいところ/わるいところ(※ネタバレあり)

『オーメン/最後の闘争』とは?

ホラー映画シリーズ『オーメン』の第三作。

その名は『オーメン/最後の闘争』(Omen III: The Final Conflict


オーメン/最後の闘争 (字幕版)

もう「最後」って言っちゃっている通り、三部作の完結編となります。

この後もなぜかオーメンと名のつく続編は作られていくのですが、それらはもう別の話。少なくとも悪魔の子「ダミアン」君が暴れ回るシリーズは本作で幕引きです。

別記事でも述べた通り、

私は『オーメン』第一作をめちゃくちゃ高く評価しています。

そんな私、ファンからも評価の低いこの第三作をどうみているかと言うと、

「高い評価はできないが、何をやりたかったか理解できるぞ」と、慈悲深い父のような優しい目で見ております。

まあ、聞いてください。

この第三作、ストーリーラインは悪くないと思うんです。

オトナになったダミアンが、いよいよ本格的に世界の破壊に向かい。それを止めようと、七人の修道僧がイタリアを出発する、というストーリーラインは。

そして、舞台がイギリスとなっているのも、第一作を思い出させる背景設定で、なかなか良い。

なにがわるいのか?

いやもう、いろいろ、わるいんですが。

私がとりわけわるいと思っているところを指摘しようと思います。以下はネタバレになるので、未視聴の方はご注意ください。

わるいところ(ネタバレあり!)

私がいちばん、気になってしまうところ。

いちばん、わるいと思っているところ。

それを、ハッキリ、言いましょう。

すなわち、

ダミアンを暗殺しにやってくる修道僧たちが、勝手に死んでいく

ことでしょうw。

第一作でも第二作でも、ダミアンの正体に気づいた人は、けっこう頑張ったところで、飛んできたガラスに切断されたり、エレベーターのケーブルにやられたり、いろいろ見せ場を持たせてもらった上で豪快に亡くなっていたはずだぞ、、、?!

それなのにこの第三作の7人の神父の死に方ときたら。

ひとりめ:ダミアンを暗殺しようとテレビスタジオの天井裏にひそんでいたら、スタッフに声をかけられてビックリして足を滑らせ、転落死

ふたりめ:仲間にダミアンと見間違えられて、仲間にメッタ刺しにされる

さんにんめとよにんめ:雷に襲われ、あわてて廃墟の地下室に自分から入り込み、「やばい出口がない!閉じ込められた!」と騒いでフェードアウト。閉じ込められたのではなくて勝手に入ったようにしか💦

ごにんめとろくにんめ:あれだけ「正面から向かって行ってもかなわない」と自分達で伏線?をはっておいたのに、ダミアンに白昼堂々、真正面から向かっていき、ダミアンの超能力?で死亡。一人はぎこちなく橋から落っこち、もう一人は犬に食われて(!)死亡💦

しちにんめ(リーダー):物陰に潜んでからの奇襲を狙って返り討ち。しかもその際、関係ない子供を巻き込んで殺してる。

いやもう、、、なんだこの映画?コントなのか?と💦

モンティパイソンプレゼンツ、「悪魔をやっつけようとしたけどうまくいかないズッコケ修道僧たちの珍道中!夜のイギリスは大混乱!」みたいなタイトルのジョーク映画なのか?と💦

しかしこれが正式なシリーズ完結編なのです。どうしてこうなった?

悪いけど、、、あまりのショボさに、笑っちゃいましたよ、私は。

よいところ

わるいところだけ指摘して済ますのも何ですので。

よいところも、指摘しておきましょう!

この映画に、よいところ、あります!

イギリス・ロケの美しさです!

三人目四人目の神父が(勝手に)閉じ込められてしまう廃墟は、コーンウォールの屋外古城での撮影。

クライマックスは、ヨークシャーの修道院の遺跡(ファウンテンズ・アビーという世界遺産です)でロケ撮影されています。

これらの、イングランドの荒野と廃墟の神々しさとのコントラストが、なんともいえずフォトジェニック。

うーん、いい景色だなあ、イギリスに行きたいなあ!と思わせてくれる、なんとも旅情をかき立てられる、ロケ映像なのでした。

・・・よいところは、以上

まとめ

というわけで、私のオーメン三部作への感想を整理しますと。

第一作は、紛れもない傑作!

第二作は、酷評する人も多いけど、私は「かなりがんばった優秀作」とみています

第三作は、そんな私も、弁護のしようがない💦

というところでしょうか。

でも、こうとだけは言っておきましょう。聖書のヘロデ王のパロディの如くに赤ん坊が殺されていくところとか、カルト宗教の如くダミアンの信奉者がどんどん増えていくプロセスとか、ストーリーラインはかなり良かったと思うんです!

うまくやればかなり怖い映画に仕上がった筈なのに、何かの歯車が狂ったように「???」な映画になっているのはなんなのだろう?

やはりあの七人の修道僧たちのコントが、全体の緊張感をお笑いで破壊してしまうからでしょうか、、、!


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私の記憶の中で映画『オーメン』にめちゃくちゃ過激な「思い出補正」がかかっていたハナシ

close up photography of concrete tombstones

その後シリーズ化されることになるホラー映画『オーメン』の第一作を、私はそうとう小さい時にテレビで観ました。

めちゃくちゃ怖かった。

いやしかし、これも正直に言わなくちゃいけない。怖かっただけでなく、「カッコいい!」と思った。

というのは、日本文化の中で育っていた小さな男子にとって、「666の記号」とか、「メギドの短剣」とかいった、キリスト教圏オカルト思想の小道具が、エキゾチックで、ゾクゾクきた、というところ。この感覚、昭和のラストの頃のオカルトブームを知っている人には、伝わるのではないでしょうか。

成人してからも、『オーメン』の影響は続きました。大学時代にイタリアとイスラエルにバックパックで個人旅行したのは、『オーメン』の影響がなかったとは言えない・・・。

ところが、私。最近気づいたことがあるのです。

私はそのようなわけで、『オーメン』シリーズ第一作を、めちゃくちゃ怖い、究極のホラー映画だと思っていたのですが、最近になってちゃんと見直してみると、自分の記憶の中にあるのとずいぶん、違うんです。

たとえば、子供の頃の私が本作の中でいちばん怖いと思った、イタリアの墓地で山犬に襲われる場面。

私の記憶の中では、このシーン、10~20匹もの山犬の大集団が右から左から襲ってくる中を、グレゴリー・ペックが必死に逃げるという、めちゃくちゃ危機一髪な恐怖シーンでした。

ところが最近見てみると・・・山犬、二匹くらいしかいないんですわ!!いや、これでも、雰囲気満点で怖いは怖いんですけど(50%は音楽の力ですがw)。

他にも、私の記憶の中では、残虐非道、めちゃくちゃ怖いシーンになっていたところが、

今、この年齢で見直すと、かなりな「補正」がかかっていたものと判明しました。

しかし、こういうことがあるので、子供の頃に見たホラー映画ってのは、特別な存在になっていくんでしょうね・・・!

ですが!

たったひとつだけ!

オーメン第一作で、たったひとつだけ、私の思い出の中よりも、今、見直した実際の映像のほうがエグくて怖かった、という場面がありました。

ファンなら予想がついたかもしれません。イスラエルに乗り込んだ主人公二人、そのカメラマンのほうが、あんなことになっちゃうシーンですね!

あのスローモーションの残虐シーンだけは、思い出が追い付いていなかった!

というのも、あのシーンは、特撮のツクリモノ感がむしろ強みになっていて、悪夢の中のシーンのような嫌な映像美になっているんですね。これがあるから、『オーメン』第一作は今見ても恐ろしい。

・・・という『オーメン』に関するハナシをTwitterのほうで投げかけたら、いろんな方から反応をいただけました。やはりオーメン好きは日本にもたくさんいるのだ!

「オーメンが好き」などといったら「クラいヤツ」といじめられるのではないかとビクビクしていた小学校時代の私に伝えたい。君は孤独じゃないぞ!ネットの世界には、こんなにもオーメンファンがいるw!


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フランスの超絶技巧映画『セリーヌとジュリーは舟でゆく』を映画史上最大の幽霊映画として見直したいけど中古がもはや高価すぎるハナシ

crowded street with cars along arc de triomphe

唐突ながらジャック・リヴェット監督が大好きです。

芸術系フランス人監督というならば、

ゴダールもアラン・レネも好きですが、

やはりジャック・リヴェットが最高すぎる。

そして彼の『セリーヌとジュリーは舟でゆく』というチャーミングな作品が、本当に、本当に、好きなのです!二十歳の頃にこれを見て、心底、ほれ込みました。

それにしても・・・

なぜ、女優二人さんがパリを自由に歩き回りながら、ほとんどがアドリブと思われる演技を繰り返し、

最後には、過去と現在がミックスされている変な館(?)に入り込み、白塗りの人たち(過去の亡霊?)から子供を救い出す、という、

そんな映画に、ここまで私は惹きつけられたのか

だって、わけのわからないといえば、これほどわけのわからないモノもない。

それなのに、めちゃくちゃ自由奔放で、女優さん二人がチャーミングで。

目の前で即興で何かが作られていくようなインプロビゼーション感覚

そして、怪談好きとなった今だから、言いましょう。

最後の方に出てくる、白塗りの人たちとの絡み。

日本でいうところの、幽霊映画じゃないですか?!

少なくとも、そう思って見る事が可能じゃないですか?ボートの上に白塗りの人が佇んだままゆらゆらと小河に浮かんでこっちを見ているシーンなんて、日本の幽霊画感覚そのままだと思うのですが。

本来は、ジャック・リヴェットの『セリーヌとジュリーは舟で行く』なんて、映画学生などが垂涎で研究する「おゲージュツな映画」扱いですが、

私などが、これをあえて「幽霊映画」として見直したら、どういう発見があるのか

そんな試みをしてみるのも、面白いかと思いまして!

何年かぶりに、見直してみたいと、ちょっと調べてみたのですが。。。

この作品が入っているDVD、

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楽天で、2022年7月現在、11万円ってどういうことだいw。

もう少しマシな価格のモノを見つけましたが、それでも現在7,000円台かぁ。

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よし、これはツヤタやゲオを慎重に探しまくろう!

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映画『回路』に出てきた日本ホラー史上最恐幽霊への海外からの人気に嫉妬してしまったハナシ

graffiti painted on wall in abandoned building

うちの奥さんが、ふと、こんな感想を漏らしました。

「アメリカの幽霊はお金をかけた特殊効果で豪快に怖がらせにくる、日本の幽霊はお金をかけずに『しぐさ』で怖がらせにくる」と。

うちの奥さんはホラー好きではありませんが、特に90年代以降の日本ホラー映画を総括するにはピッタリな整理ですよね。感心した次第。

「日本の幽霊は『しぐさ』だけで怖い!」という点については、私にも言いたいことがあり。黒沢清監督の『回路』の前半にちょっとだけでてきた女の幽霊、あれはめちゃくちゃ怖くないですか

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別に何をしてくるわけでもなく、どこが怖いって「動き方がなんか怖い」としか言いようがない幽霊ですがw、この幽霊さん、海外のホラー映画ファンにも大人気のようで、たとえば以下の動画のコメントを見ても、「これこそ映画史上最恐の幽霊だ!」という絶賛の声が溢れていますね。凄い人気!

↓これがその幽霊の登場シーン。怖いものが苦手な方は閲覧注意

それにしても、日本語でも適切な形容詞が見つからないこの幽霊さんの「へんな動き方」w、英語圏の方々も表現に困っているようでちょっと面白い。

たとえば、

「この女幽霊はSwoop downしたのだ!」と説明している人がいました。この幽霊の動作を表現するにあたり言いたいことはわかる。ふわっと舞う感じが、ですね。ふわっとした。

ひどい英語表現をしている人もいました。「この幽霊はtripしたのだ」、つまり「躓いたのだ」としている方がいました。もっともこの人は案の定、他のコメントで「fool!」「idiot!」とボロクソに批判されています。そりゃそうですね、あの幽霊は躓いたわけではありません。このシーンはコントじゃないんだから。。。

Unheimlichという形容を当てている人もいました。これはちょっと面白い。「不気味な」と言いたいわけですが、これはドイツ語が語源ですね。で、このUnheimlichは、フロイト学派が使う「不気味なもの一般」という精神学用語でもあります。この幽霊さんを表現するのにフロイトの用語を当ててくるとはなかなかの言語使いとみた!

もうひとつ面白いのが、スラングだらけの「I get goosebumps and this strange feeling in my stomach」という感想。「鳥肌モノである上に胃袋にゾクゾクくる」という感じかな。言葉の意味はよくわかりませんが、なんとなく伝わってきますw

さて私の感想としては、これほどcreepyという形容詞が当てはまる幽霊もなかなかいないだろう、というところでしょうか。scaryというよりもfrighteningというよりも、このシーンはcreepyと呼ぶのがふさわしい。というわけで黒沢清の『回路』に出てくるこの幽霊さんこそ、

The creepiest ghost I have ever seen!

と思っております。

※なお、この幽霊を演じたのは前衛舞踏のダンサーさんだそうです。あの動き方、、、なるほど!


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