『怪談のシーハナ聞かせてよ。』第壱章レビュー集

さまざまな切り口からのベスト怪談集:「異次元系」の名作怪談10選

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私個人の好みの怪談パターンとして。

現代実話怪談でいちばん面白いのは、幽霊モノでもヒトコワでもなく、私が「異次元系怪談」と呼んでいるもの。

それは「パラレルワールド」とか「タイムスリップ」とか、あるいは「記憶の書き換え」を疑わせるようなフシギ系。『トワイライトゾーン』やら『世にも奇妙な物語』といった作品に登場しそうな不可解なオハナシ。

量子の異常なのか、時空の異常なのか、はたまた人間の脳のフシギな暴走がもたらした高度な幻覚だったのか?「科学的にも、なんとか説明がつきそう・・・な気がする」寸止めの「異次元系怪談」は、そういう意味で、特に私のようなSF系ホラーが好きな人間の興味関心を、今日も強くそそる怪談たちなのです!

第十二回で登場した『ニュース』は、私のいう「異次元系怪談」の代表例として提示したい怪談。けっきょく何が起こっていたのか、さっぱりわからない。誰が悪いとも、誰がおかしいとも、判然としない。わかっているのは、わずかな間、体験者がトイレに行っている間にだけ、世界が少し、変わっていたらしい、ということだけなのです。

第三十三回の『決まりごと』も忘れがたい。これは話を聞いている最初は心霊系怪異と思いきや、実は時間ループ系(かもしれない)という解釈を残すオチに持ち込まれるもの。そしてもし、「あれ」が時間のループによって見えていたものだったとするならば、体験者さんの運命はおぞましいほど救いがない!まだ第三者の幽霊のせいだったほうがマシだった!?

第二十八回の『インターホン』は、これまた幽霊のシワザなのかなんなのか、混乱させてくるハナシ。私としては、幽霊の類というよりも、何らかの並行世界(曖昧な言い方ですいませんが!!)の存在を感じさせる不思議譚と思ったのですが、いかがでしょう?

第十九回にて洋介犬さんが放った異様きわまる怪談『円盤』。UFOもの、といえば、UFOものなのですが、それで済ますわけにはいかないキミョウキテレツさがたまりません。そして、恐ろしいことをひとつだけ、言ってしまっていいでしょうか?見間違いかと思いますが、私も子供の頃、このハナシに出てきた「ヒトデっぽいなにか」の描写とやけによく似たものを一度見ているんですよね・・・いや見間違いとは思いますよ・・・でも、こうも、怪談師さんが語る別の方の体験談と符号している「ように見える」のは、なんか・・・しこりとして・・・のこりますよね・・・ヒヒヒ。

場所は伏せられているものの、兵庫県のどこかで起きたハナシということだけわかっている、宇津呂鹿太郎さんの『依頼』。まさにこのままトワイライトゾーンや世にも奇妙な物語に登場してもよいような、異次元系の摩訶不思議なエピソード。掛け軸がキーアイテムとなって、時間ないし空間が歪んだ(これまた曖昧な言葉で失敬!!)としか思えない。

百物語スペシャル第四話目で丸山正也さんが披露したのが、干していた洗濯物に見知らぬ人の洗濯物が混じっていた、というところから始まる怪異。単に誰か近所の洗濯物が間違って紛れたのかしら?と思っていたら、事態は意外な展開を見せます。人間の無意識のなせるイタズラだったのか、それとも本当に時間が歪んだのか?

百物語スペシャル第三十三話目にて星川慶子さんが話した、田舎のホテル宿泊時の怪体験のハナシもまた、私の言うところの「異次元系」の典型といえます。これまた実にヘンテコなハナシ。ただし、テレビドラマと違って、落ち着いて対処したらあっけなく怪現象が収まってしまうという、「何か悪意があるもののシワザというわけでもなかったらしい」おいてけぼり感が、実話怪談ならではの後味。

放送第五十四回で、アシスタントの高田のぞみさんが、番組卒業のタイミングで語ってくれたご自身のモチネタが『青いジャンパー』。高田さんが第壱章の最終回にこんな隠し玉を持ってきたとは!これは凄いハナシ。まさに異次元系ですが、子供たちの世界が舞台ということで、なんとなく物悲しくもある。名怪談!

地味ながらも「異次元怪談の典型」としてもうひとつ忘れがたいのが、百物語スペシャル第三十八話での、狩野英孝さんのハナシ。本人は「こんなのも怪談として、いいんでしょうか?と迷いながら持ってきたネタです」という意味のことを仰っていますが、いやいや、実にいい怪談じゃないですか!確実に異様な現象が起こり、弟とお父様とさんざんその話をしたはずなのに、ある日を境に、ケロリと、自分以外の家族全員がそのことを忘れてしまった、というオハナシ。自分だけが覚えていて、他の家族はみんな「なんだっけその話?」と冷たく反応してくるのは、狩野さんご自身がおっしゃるとおり、「実話怪談あるある」ですよね。ありますよね、でも、なんなのでしょうね、この系統のハナシ。

最後に、第五十三回で国沢一誠さんが話した『Siriにまつわる話』。最新テクノロジーがもらたす不可解な事件、というわけですが、それにしても「電話」というものが登場したら大量に「電話怪談」が生まれ、テレビというものが登場したら大量に「テレビ怪談」が生まれたように、意外なことに怪談とテクノロジーはいつも親和性が高いものなのです。たしかに、言われてみると、Siriってなんか、ブキミなモノですよね・・・!

総評として、この「きりくち」を扱っている中で、私は「無意識のイタズラ」という言い方をしましたが、存外、これが私の「怪談」に対する態度のすべてを物語っているかもしれません。実は私は幽霊というものを信じてはおりません。ただし、「怪談」というものがウソだと思っているわけでもなく、おそらくそれは、迂闊な言い方になるかもしれませんが、どちらかといえば人間の「無意識」とか「深層心理世界」とか「潜在脳力」といったものの可能性にかかわる、ナニカなのではないか、と。

本当にナゾめいた怪談は、私たちが「自分の意識はこういうもので、現実はこう見えるもの」と安住している日々の「世界の見え方」に、突然、穴を開ける

それが、世界の側で何かが起こっているのか、脳の中で何かが起こっているのかは、禅問答みたいな話になり、ぶっちゃけ、どちらでもよろしい。

そうした「安住している世界の見え方」に、ぬらりとした穴が開く感覚、これを楽しみに、私は怪談を聞いているところがあります

そして、そんな私にとって、「異次元系」とここで整理したような怪談はまさに、「安住している世界の見え方」に穴を穿つ最高の事例たちなのでした!

※次回はいささか番外編となりますが、本篇の怪談以外で語られた、トークの中でのちょっとした怪談で、むしろ怖かったもの3編を紹介させていただきます!


※『怪談のシーハナ聞かせてよ。』第壱章は2024年11月現在、DVDはGEOにて貸出可能、放送第39回以降からはU-NEXTで動画配信中と確認できております。

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